第23章 追憶の救済
六日目、失格者一名。
七日目は一人の脱落も出なかった。合格者は、やはりたった五名。内三名が水の呼吸の使い手、一名が炎の呼吸、一名が岩の呼吸だった。
「やはり、水の呼吸の使い手が多いのですね。鱗滝様に師事していない方は、どなたに教わっているんでしょう?」
宇那手は、くたびれた様子で訊ねた。
「お前の様に我流も多い。そこら辺の引退した隊士が勝手に教えている場合もあるな」
冨岡は、宇那手の肩を引き寄せて、自分に寄り掛からせた。宇那手は、冨岡の胸に顔を埋めて、微笑んだ。
「これで、やっと家に帰れます⋯⋯」
「そうだな。⋯⋯あの子供はどうした?」
「まだ夜明けなので、眠っています。そろそろ起こしに行きますね」
「家で預かるのか? 俺は継子取らない。指導者にも向かない」
「少し家で休ませた後、鱗滝様に預けるつもりです。あの子は強いですが、持久力が足りない。根性も。狭霧山で鍛えて貰いましょう。⋯⋯不思議なことも、ある物です」
宇那手は、指を組み、足元を見た。
「花の呼吸の育手は、既に亡くなっていました。彼女は誰に習ったのでしょう。炭次郎様が、錆兎さんや、真菰さんに指導を受けた様に⋯⋯」
降り注ぐ朝日に、彼女は目を細めた。朝日を受けて微笑む彼女は、冨岡にとって、神々しい存在だった。
「人は、鬼の存在を迷信と言い、神に祈ることを忘れつつある。神秘という言葉の重みが失われつつあるこの時代に、それでも、目に見えない存在は寄り添う様に、傍にいる。きっと錆兎さんは、師範の傍にいます。昨晩貴方は、錆兎さんと、幼い貴方を救ったんです」
「違う。救ったのは、お前だ。お前が俺を救ってくれた」
「いいえ」
宇那手は、優しい表情で首を横に振った。
「あの晩、貴方が私を助けてくれた事から、全てが始まったのです。貴方が私を奮い立たせてくれたから、今、戦えるのです」