第23章 追憶の救済
「さっき、吹っ飛ばされて、木に打ち付けられて、そのまま意識を失くしました」
「では、最後まで戦おうとしたのですね?」
「はい」
少年の返事を聞き、宇那手は微笑んだ。
「そちらの子は、失格とします。つまり、次回以降、また最終選別に参加する権利があります。貴方は、失格にも、棄権にも該当しません」
彼女は見習いが打った新品の刀を差し出した。
「貴方の刀が折れたのは、貴方が誰よりも鬼を斬ったから。気配で分かります。次の夜が最後。頑張れますね?」
「はい!!」
獅子毛の少年は息を巻いた。宇那手は、彼をギュッと抱きしめた。
「鱗滝様が貴方の帰りを待っています。頑張って。諦めないで」
宇那手は簪を拾い、気絶した少年を抱えて、茂みへと戻った。
「冨岡さん?」
彼女は、静かに俯いている師範に声を掛けた。
冨岡は、なんと言えば良いのか分からなかった。宇那手は、あの日の錆兎と自分の両方を救ってみせたのだ。そしてその頼もしい背中は、きっと、未来の隊士に大きな希望を与えた。
信じたかった。自分の存在も、宇那手と同じ様に、階級が下の者の憧れや、希望、救いになっていると。
「感謝する」
冨岡は、短く、そして重々しく礼を述べた。粗方、彼の過去を知っていた宇那手は、月の様に穏やかな笑みを向けた。
「はい。⋯⋯今晩は、もう大丈夫でしょう。明日も、残り一日となれば、踏ん張りがきくはず。この子だけが、気掛かりだったんです。絶対に死なせたくは無かったので」
彼女は東の空を見上げ、目を細めた。
「戻りましょうか」
「ああ」
二人は、共に山頂を目指した。