第23章 追憶の救済
(もう止めろ!! そんな者は捨て置け!!)
冨岡は、胸を抑えて、心の中で叫んだ。
上空に鐘の音が響いた瞬間、右方向から撞木で打ち付ける様な攻撃が襲い掛かった。
「壱ノ型、水面斬り!」
獅子毛の少年は、気配を察知し、応戦出来た。しかし──
「そんな!!」
刀が折れたのだ。彼は咄嗟に祐司と言う名の少年を庇う様に両手を広げた。
「祐司!! 起きてくれ!! 逃げろ!!! 逃げてくれ!!!」
(俺のことは捨ててくれ⋯⋯)
冨岡が、かつての絶望に支配され、何も出来ないでいる内に、茂みから、矢の様に何かが飛び出した。
月の光を受けて輝く、青いとんぼ玉。宇那手の簪だ。
それは、今にも爪を立てようとしていた鬼の腕に突き刺さり、動きを封じた。
宇那手は、獅子毛の少年と、異能の鬼の間に立ち、剣を抜いた。
「私が来るまで、良く堪えました。後は任せて」
「くそ!! くそ!! 何故徳を積んだ私が醜悪な姿に?! この牢獄に閉じ込められ、人を喰らわなければ生きては行けぬ!! 私が悪いと言うのか!!」
異能の鬼は激昂し、次々と宇那手に攻撃を加えた。彼女は少年達を守りつつ、答えた。
「人を喰らう衝動を抑えて生きている者もいます。でも、貴方は殺した。今正に殺そうとしている。ですが、貴方が自ら首を差し出すなら、痛みの無い方法で殺して差し上げましょう。輪廻転生を信じるのであれば、鬼のいない、平和な時代に生まれ変わる事を祈ります」
「嫌だ!! 嫌だ!!! 何故俺が殺されなければならんのだ!! 全てを奪われた俺に、命も差し出せと言うのか!! 俺は生き残る!! お前も殺して──」
「⋯⋯ 壱ノ型、水面斬り」
宇那手は、悲しげな表情で首を斬り落とした。灰の臭いがするのを、確かに認めてから、彼女は少年たちに向き直った。
「状況をお聞かせください。そちらの少年は、何故気絶を?」