第22章 最終選別※
宇那手は、いつの間にか用意されていた幕の中へ案内された。ふと、振り返ると、少女が涙を拭っていた。
「ごめんなさい。貴女の名前を聞いていなかったわね。教えてくれる?」
宇那手は、山の中とは全く違った優しい声色で問い掛けた。少女は目を見開き、おずおずと口を開いた。
「藤原環」
「藤原?!」
宇那手は驚いた。時代が変わったとはいえ、まだその性を名乗る者はそれほど多くない。京から遠く離れたこの地では、尚更。
環は肩を竦めて苦笑した。
「先祖が馬鹿なことをした報いを、私が受けていると親戚に言われました」
「その先祖は、貴女のご両親や、亡くなった親戚達に、地獄へ蹴飛ばされているでしょうね」
宇那手は溜息を吐いた。
「とにかく、貴女を私の家族として迎える。これまでどんな生活をして来たか分からないけれど、貴女は隊士以下の立場。鬼殺隊と関わって生きて行くなら、元猟師の私の指示に従う様に。出来る?」
「⋯⋯ただの商人の娘です。なんでもします」
「分かったわ。掃除と洗濯をお願いする。そうすれば、衣食住は死ぬまで保証してあげる」
「⋯⋯本当に?! ⋯⋯どうしてそこまでしてくださるのですか?!」
「見込みがあるから」
宇那手は、環の手を引っ張って、一緒に幕の中へ入った。
彼女は茣蓙に座り、隣に環を呼び寄せ、あまねに渡されたおにぎりを取り出した。
「この七個のおにぎりを作ってくれた方は、左から順に食べる様にと言った。では、一番右の具材はなんだと思う?」
「⋯⋯梅干し?」
「そうだね」
宇那手は、ほっとした。どうやら環は料理の知識を持っていそうだ。
「宇那手様、此方もどうぞ」
隠は、汁物の入った器を差し出した。
「ありがとう。この子にも少し分けてあげられる?」
「はい! 多目にご用意しております」
隠は、すぐに器を用意し、環にも差し出した。宇那手は、環に無理矢理おにぎりを一つ取らせ、感覚を研ぎ澄ました。
死人の臭いはしない。昨晩は、一人も殺されていない。恐らく、鬼の大半を環が引き付けたからだ。
そして、今、自分の周りにいる隠は、剣士としてもそれなりの実力を持っている人間ばかりだと気付いた。