第22章 最終選別※
旅立ちの夜、あまねはかなりの量のお握りと、飲み水を用意してくれた。
「笹の端に、切れ込みの目印を入れました。こちら側から順に食べてください。傷みやすい物が入っています。⋯⋯全て、食べ切ってくださいね」
「ありがとうございます」
「けっして無理はなさらないでください。本来なら、きちんと体力を付けてから、旅立っていただきたかったのですが⋯⋯」
「心配いりません。軽い遠足の様な物なので」
宇那手は丁寧に礼をし、屋敷を後にした。この仕事が終われば、自分の屋敷に戻れる。師範と共に過ごせるのだ。
丸々一日掛け、夜中に、彼女は最終選抜の会場に辿り着いた。参加者は平常より少し多い。三十二名。
宇那手は存在を悟られない様、木の影に隠れて顔ぶれを観察した。
仕方のない事だが、見込みがありそうなのは、ほんの数人。全集中常中を身に付けているいる者はいない。
弱いのなら、誰かと協力すれば良い。それは決まりに反しない。しかし暗黙の了解なのか、全ての人間が単独行動をする。緊張なのか、ライバル視なのか、他の参加者と距離を取っている。
「あ⋯⋯」
宇那手は、例外を発見した。獅子毛の少年が、さらに幼い黒髪の少年と何か話していた。両者共に、厄除の面を付けている。
鱗滝は精神的再建を果たし、新しい弟子を取ったのだ。もう手鬼はいない。その面が、鬼を呼び寄せる事はないだろう。
黒髪の少年の方はともかく、獅子毛の少年の方は見込みがある様に思えた。
開始時刻になると、参加者たちは続々と藤のトンネルを潜り抜けていった。
宇那手は暗がりから出て、輝利哉と妹に頭を下げた。
「あとはお任せください」
彼女も、森の中へと足を踏み入れた。