第21章 仮面
本人は仮面と言い張っているが、両親に抑圧され、それでも愛し、苦しみ、戦って来た全ての時間は、彼女自身の物だ。
でなければ、鬼舞辻に対して強烈な憎しみを抱くことなど、無かっただろう。
繊細で、不安定で、本当はもっと、誰かに頼りたがっている。けれど、胡蝶では、彼女の荷物を分かち合う事が出来ないと分かった。
宇那手は、何処か吹っ切れた様子で刀を抜いた。
「師範が鍛錬に励んでいるのでしたら、私がサボっているわけには行きません。私は、まだ強くなれる。まだ限界では──」
風鈴の音が響いた。
宇那手がその音を聞くのは、三年ぶりの事だ。珍客は、隠を振り切り、遠くからも感じ取れる程の怒りを醸した。
「刀を折ったのかぁぁぁぁ!!」
「折ってません」
宇那手は、冷静に答え、手入れの行き届いた得物を掲げて見せた。
鋼鐵塚蛍は、真新しい刀を宇那手に届けに来たのだ。
「ありがとうございます、鋼鐵塚さん。以前いただいた物も、見ていただけますか? 手入れは心掛けていたのですが、一度刃こぼれをしたので、研ぎ直しました。強度が下がっていないと良いのですが」
「見せてみろ。⋯⋯んん?!」
彼は刀身を目にし、身を乗り出した。
「色が変わっている!!! 何だこの色は?!?! この様な色変わりを見た事が無い!!!! 何という名誉!!! 何という美しさ!!! 何処ぞのクソガキとは大違いだ!!!」
「は⋯⋯ 鋼鐵塚さん?」
「強度も問題ない。手入れも行き届いている。刃こぼれも無し。やはりあのクソガキが弱いから刀が折れたんだ!!!! クソーッ!!!!!」
一応問いに対して答えはくれたが、人の話を聞かな過ぎる。胡蝶も同情の目で、その場を離れた。⋯⋯いや、逃げた。