第21章 仮面
ただ一点、揺るがぬ事実がある。
「両親を即座に殺す判断をした私を、師範は評価してくださった。責めたり、異常者扱いせずに、褒めてくださった。あの時の私は、紛れもなく、本当の私でした」
それでも、あの晩、冨岡は宇那手に鬼殺隊への入隊を勧めなかった。
「一つ不思議に思っていたのですが」
胡蝶は、少し首を傾げた。
「貴女はどうして⋯⋯いいえ、どうやって鬼殺隊に入隊したのですか?⋯⋯冨岡さんは、あれでも声を掛ける人を選んでいます。確か育手を介さずに、最終選別を突破したのですよね?」
「家の前に倒れていた遺体が、隠に回収される前に、日輪刀を奪い、隠しました。師範には、母の実家を頼る様言われましたが、私は鬼を殺しに町へ出ました。そこで正規の隊士が襲われていた所、背後から鬼の首を斬り落とし、救いました。見返りに、水の呼吸の全ての型を見せて貰い、最終選別の存在を教えて貰ったのです。呼吸というものも習いました。その後は、実際に鬼を斬り、鍛えました。最終選別に参加する前までの期間、その隊士に随行していましたが、彼は異能の鬼に食われました。⋯⋯一年前、師範と再会するまでは、ほぼ我流でしたね」
「ちょ⋯⋯ちょっと待ってください! それでは、貴女は我流で下弦ノ十二鬼月を一体、倒したのですか?!」
「そうです。最早、妄執でした。⋯⋯一目惚れ、と言うのでしょうか。私を認めてくださった、師範を探す事だけが、生きる目的でした。あの方は、血に塗れた私に、生きていても良いと言ってくださった。自由を与えてくださった。心から⋯⋯愛しているんです」
宇那手の愛情は、胡蝶の想定よりも、深く、重い物だった。冨岡がそれを受け止められているのは、彼がかなり鈍感だからだ。