第21章 仮面
「⋯⋯ああ、それで」
宇那手は、那田蜘蛛山で、累の姉役に無理難題を吹っかけていた事を思い出した。
胡蝶は、自身の怒りと、姉の意思を足して割った結果、あの様な言動を取ったのだ。当初宇那手は、胡蝶の精神が何らかの病に冒されているのではないかと、疑ったくらいだ。
「火憐さん、貴女の仮面は誰に貰ったんですか? それとも、自分で作ったのでしょうか?」
胡蝶は、宇那手の頬に触れた。宇那手は考えた。何時からだろう。本当の自分以外を演じる様になったのは。
「⋯⋯家族⋯⋯です」
思い出す。山奥での生活。一人娘の火憐を父も、母も殊更可愛がった。それなりの家に嫁がせようと、努力していた。だから、宇那手も、可愛がられる努力をした。それが愛情に対する、当然の応え方だと思っていたから。
鉄砲を担いで山を駆け回るよりも、裁縫や料理を覚えた。
けれど⋯⋯。
「きっと、私はそれほど両親を愛していなかったんです。一定の愛情はあっても、ありのままの自分を受け止めてくれない不満は、心の何処かにありました。だから、鬼になった時、躊躇なく殺せた。⋯⋯隊士になってから、自分の異常さに気付きました」
大抵の人間は、家族や恋人が鬼に変貌すれば、殺さないでくれと言った。心が通じているから、自分のことは分かっているから、と。
「鬼を殺している間だけは、本来の自分でいられた気がします。⋯⋯刀を振り回す私を受け入れてくださった、師範の前でも。⋯⋯いえ、師範にも、やはり仮面を見せていますね。嫌われたく無い、愛されたいという思いから。だから、鬼舞辻は見破れなかったんです。仮面を被っている時間の方が長いので。でも⋯⋯」