第21章 仮面
「⋯⋯分かりました。ですが、最大量はお渡し出来ません。何故なら、それは、鬼の首を斬り落とせない、私の切り札だからです。私は今、自分の体を作り替えています。きっと、私の力量では十二鬼月には敵わない。柱の中でも、最弱です。姉の仇を見つけ出したら、私を食わせて、後は継子のカナヲに任せるつもりです。それを悟られたくは無いので」
胡蝶は、小さな瓶を宇那手に渡した。
「食事の後に飲んでくださいね」
「ありがとうございます」
宇那手は、受け取るなり、すぐに飲み干してしまった。
「火憐さん?!」
胡蝶はギョッとして手を伸ばした。
「話を聞いていましたか?! 何を考えて──」
彼女は、宇那手の目に強い光が宿り、鬼に立ち向かう際に浮かべている笑みに慄いた。
「食後に飲めば、吸収が穏やかになります。肝臓の働きが、毒の分解に追い付き、成分が身体に蓄積されない。それをご存知だったはず」
宇那手は、対等な存在として、胡蝶を見詰め、腕組みをした。
「食事に気を遣っていただいたので、脳が良く動きます。鬼舞辻にも言ったのですが、私に嘘は通用しません。嘘を見抜く能力に長けていますので」
「鬼舞辻に?!」
胡蝶は失神しそうになった。宇那手のことだから、慎重に言葉を選び、可能な限り穏便に話を付けて来たのだと考えていた。まさか、喧嘩を売る様な言葉を投げ付けて来たとは、想像もしていなかった。
覚悟を決めた宇那手は、本来の強さを取り戻し、クスクス笑った。
「鬼舞辻⋯⋯月彦の行動を事前に調べていました。彼は病弱、顔色が悪いと言われれば激昂し、人を殺します。気紛れで、幼稚。非情で短気。しかし、実業家としての腕前は確か。鬼としても、絶大な力を持ち、気位が高い。機嫌取りだけに精一杯の弱者に興味を持つとは思えませんでした。そんな人間を、あいつは対等に扱わない。自分に相応しく無いと切り捨てる。私は、鬼舞辻にとって、対等に接する価値のある者として振舞いました。まあ⋯⋯あれだけ、対話の難しい相手も初めてでしたが。まんまと罠に嵌ってくれた!」