第21章 仮面
「⋯⋯そう⋯⋯でした⋯⋯。私が⋯⋯愚かでした⋯⋯」
宇那手は、声を詰まらせ、胡蝶に背を向けた。彼女は元々泣き虫な性格だった。
泣き虫で⋯⋯死ねば解放されると思いながら、それでも戦い続けて来た。弱い自分が出来た選択を、師範が出来ないと考える事は、あまりに失礼で傲慢だと思った。
「早く⋯⋯早く師範にお会いしたい⋯⋯。本当は任務なんて、重責なんて放り出して、ただ、あの人を守りたい⋯⋯。あの人のために生きたい!!」
「お気持ちは分かりますが、任務は絶対ですよ。まあ、貴女にとっては、難しい物では無いはずです。すぐに会えますから、沢山食べて、笑顔でいましょう?」
胡蝶は、そっと宇那手を抱きしめた。
「大丈夫。全て上手く行きます。大丈夫」
「⋯⋯っ⋯⋯ひっ⋯⋯師範⋯⋯」
泣きじゃくる宇那手の様子を遠目に見ていたあまねは、一人で夫を支えきれない無力を呪った。彼女は当然、刀を振ることなど出来ない。一人で遠出をし、鬼の頭と接触した所で、何の価値も見出されず、殺されるのが関の山だ。
守るべき子供が、自分の命以上の物を懸けて戦っている姿は、苦しみの象徴だった。これが初めてでは無い。
負傷者の見舞いに行った時、親族に責め立てられた事もあった。「こんなに辛いのなら、殺してくれ」と懇願されたこともある。しかし、あまねは、どの願いも叶える事が出来なかった。
「⋯⋯私は、戦う事しか出来ませんね」
宇那手は、袖から簪を取り出し、髪の毛を纏め上げた。覚悟を決めた彼女は、胡蝶に向き直り、涙を拭った。
「私は死にたくありませんが、それ以上に、鬼にはなりたくありません。藤の毒を増やしてください」