第21章 仮面
翌朝も、彼女はきっちり食事を摂り、昼食を終えた頃には、すっかり体調が元通りになっていた。
あまねは、肉や魚の代わりに、卵や貝の類を料理に使用してくれた。
昼過ぎ、体が鈍らぬ様にと、庭で刀を振っていると、胡蝶が現れた。
「火憐さん、お身体の調子は如何ですか?」
「胡蝶様⋯⋯。もう、問題ありません」
「粗方事情は窺いました。貴女が浅草へ一人で向かった日、冨岡さんは半狂乱で、引き止めるのに苦労しました」
「申し訳ございません。ですが、どうしても師範にお話する事は出来ませんでした。師範は誠実ですから、嘘を隠せません。鬼舞辻と話すのであれば、私の様に狡猾な嘘つきの方が適していたのです」
「どうして、そんな言葉で、自分で自分を傷付けるのですか?」
胡蝶は、宇那手の肩に手を置いた。
「貴女は何も悪くありません。これまで、誰も出来なかった方法で、鬼舞辻と戦っている」
「師範が⋯⋯誰よりも苦しんでいるので⋯⋯。私は自分を許せない」
宇那手は、刀を収めて、胸を摩った。
「師範は今、私を殺すための鍛錬をしております」
「私が直接聞いた話とは、少し違いますね」
胡蝶は、ひょいと岩の上に腰掛けた。
「冨岡さんは、貴女を殺さずに済む様、修行をすると言っていましたが。⋯⋯絶対に、貴女を鬼にはさせない、と。自分の身体に痣が出るまで、刀を振るうと言っていましたよ」
彼女はニコリと笑い、宇那手に向かって優しく語り掛けた。
「貴女と同じです。迷っても、それを行動には出さない。あの人は、貴女が倒れる程深く思い悩み、守らなければいけないほど、弱くは無いと思います。だから、若くして柱になり、三年以上生き残っている。きっと貴女を守り抜きます。もし、それが叶わなくても、鬼となった貴女を迷わず斬り、鬼舞辻を倒します。言葉とは裏腹に、貴女の事を、誰よりも深く知っていた人間として、生きて行くはず。私が、姉さんの後を追わなかった様に」