第20章 信頼
「いいえ。伊黒様に、胸の内を曝け出す機会がありませんでしたので、助かりました。怖がられて⋯⋯いないでしょうか?」
「君の言葉の裏には、常に深い優しさがある。心配いらないよ。食事の用意が出来た様だ。私は失礼するよ」
産屋敷は優しく答え、立ち去った。入れ替わりに、あまねが姿を現した。
彼女は宇那手が見たこともない料理を運んで来た。
パンの間に、野菜や卵を挟んだ主食に、玉葱の汁物。それから緑茶では無く、牛の乳を冷やした物だ。
(そうだ⋯⋯忘れていた。卵なら食べられる⋯⋯)
「箸は使わず、手で食べてくださいね。少し多目にお持ちしましたので、残していただいても構いません。お口に合えば良いのですが⋯⋯」
あまねの気遣いに、宇那手は万感の思いで低頭した。
「ありがとうございます」
「ごゆっくり、どうぞ」
彼女はすぐに立ち去ってしまった。宇那手は、一人きりで、未知の食べ物を口に運んだ。抵抗無く、飲み込む事が出来た。優しい味だった。
(飲み物にまで、気を使っていなかった⋯⋯。確かに牛の乳なら、緑茶よりも栄養価が高い。これだけでも、十分なくらい⋯⋯)
結果的に、宇那手は、やや限界を超える量を、何とか食べ切る事が出来た。そして、情け無い事に、満腹になると、すぐに眠気に襲われ、意識を落としてしまった。