第20章 信頼
「おや、皆、集まっていたのだね」
産屋敷が、娘に手を引かれ、戻って来た。彼は面白そうに周囲を窺い、宇那手の横に座った。
「さっき、杏寿郎に辞令を伝えて来た。もし、君が話せる状態なら、少し意見を聞きたい」
「勿論です」
宇那手は頷いた。産屋敷が、敢えて不死川と伊黒に退席を指示しなかった事には、何か意味があると思った。
「では、早速。下弦ノ壱は、どの様に動くと思う?」
「鬼舞辻の言葉から察するに、本格的に攻撃を加えて来るのは、駅を離れてからです。列車が駅を出てしまえば、外部から干渉し難いと言っておりました。その程度の制御はして貰えるでしょう。しかし、血気術が人間に認識し難い類の物なら、駅を出る前から使用し始めるかもしれません。珠世様の術の様に、精神に干渉する類の物なら」
「ふむ。⋯⋯そうか。失念していた。精神に干渉されると厄介だね。最悪、また同士討ちの様な状態になりかねない」
「まあ、戦力的に考えて、煉獄様を真っ二つに分けられれば一番なのですが、そうも行きませんので、せめて、炭次郎様達三名と乗車の時刻をずらしては如何でしょう? 幸い、炭次郎様は鼻が利きます。何かしら察知出来るかと。⋯⋯より警戒されている、柱の煉獄様を囮に利用するのです。炭次郎様が簡単に殺されないであろう点も、此方にとっては有利」
「柱を囮にするだと?」
伊黒は難色を示した。しかし、宇那手は動じなかった。
「柱を生かすか、十二鬼月を殺すか。殺すためなら、手段を選んでいる場合ではありません。⋯⋯ですが、私としても、炭次郎様が察知出来る血気術を、煉獄様が回避出来ないとは考えていません。先に炭次郎様達を送り込み、三人殺されてしまえば、煉獄様は閉鎖空間で、乗客を守りながら、一人で戦う事になります。⋯⋯炭次郎様が死ねば、禰豆子の行動制御が出来るとは断言できませんし。あの三人組は、十二鬼月を倒せなくとも、乗客を守る程度の働きは期待出来ます」
「その様にしよう」
産屋敷は、全幅の信頼を示した。
「それから、さっき、義勇の鴉から伝言を受け取った。君が鬼舞辻と接触し、危険を冒して取引を重ね、その過程で鬼にされた場合には、干天の慈雨以外、断固として使用するつもりはない、と。首を刎ねる役割を、他の柱に委ねる代わりに、腹を切ると言っていた」