第20章 信頼
「ああ。雑魚を相手にする時は、戦い方を変えた。昔の様に、力尽くで首をぶった斬る!!」
「良かった⋯⋯」
宇那手は、少し微笑んだ。そして、伊黒に目を向けた。
「私の存在を認めていただき、感謝しております」
「具体的な功績を上げている以上反対は出来ない。十二鬼月を含めた討伐数は、柱の誰よりも多い。そして、煉獄が敗北を認めた実力者で、お屋形様の信頼も厚い」
「甘露寺に言われたからだろうが!」
不死川の指摘に、伊黒はそっぽを向いた。宇那手は、腹の底から笑い出しそうになった。恐らく、伊黒は甘露寺に特別な感情を抱いている。彼女の望みは叶いそうだ。
「不死川様と、伊黒様は仲が良いのですか?」
宇那手の問いに、不死川は溜息を吐いた。
「勘違いするな。柱の中でいがみ合っても意味がねぇ。冨岡は、例外だ。アイツは話が通じねェ! 今も腹が立ってしょうがない!! 継子が満身創痍で倒れているってぇのに、里帰りだァ?!」
「師範は、意識の無い私の側にいても、何の意味もない事を分かっていたんです。それよりも、腕を磨こうという考え方は、尊敬出来ます。甘えた事を言うのなら、少し寂しいですが。未熟なのは、私の方です。以前師範が体調を崩した際、心配で傍を離れられなかった⋯⋯。他にやるべき事があると分かっていても。まだ、見習うべき点は沢山あります」
二人のやり取りを聞いていた伊黒は、宇那手が情に厚い人間だと分かった。そして、静かな口調は、産屋敷と良く似た雰囲気を醸していた。
穏やかで、謙虚で、自分の感情を素直に言葉にする宇那手に、伊黒も悪感情は抱けなかった。というか、奇人が殆どを占める柱の中で、宇那手は極めて常識的、かつ一般的な性格をしていた。
「伊黒様は、もしや目が見えないのでしょうか?」
「⋯⋯何故そう思った?」
「蛇が此方の様子を窺っています。白い蛇は、神の使いとも呼ばれています。貴方もまた、特別な方なのですね。何れ手合わせをお願いしたいです」
宇那手は手を伸ばして、恐れる事無く蛇の頭を撫でた。