第16章 今が旬じゃなくても〜顕如〜
しかも、私にはもう一つ心配事があった。
自分に自信がないのはもちろんだけど、決定的に足りてないモノがある。
それは…
「私、そんなに色気ない?」
「あー…。えーと。僕に聞かれても」
「ないんだ!やっぱり!」
「葉月様〜。泣かないでよー。僕が泣かしてるみたいだから」
蘭丸くんが私の涙を見て慌てていると、急に影が出来て暗くなった。
「おやおや、どうしたのかな?」
「信玄様!」
「うわー…」
蘭丸くんが露骨に嫌な顔をした。
「なんだ、蘭丸。うわーとは」
「いえいえ、".うわー嬉しいなー"のうわーですよ」
信玄様の質問に、満遍の笑みで蘭丸くんが答える。
信玄様は私の手を取ると、軽くウィンクをした。
「天女、心配いらないよ。俺が相談に乗ろう」
「信玄様が?」
私が涙を拭きながら聞き返すと、信玄様が優しく微笑む。
「あいつとは古い付き合いだから、何でも知っているよ」
「…教えて欲しいです」
「はぁ〜良いねぇ。色々教えてあげたくなってしまうなぁ」
そう言うと、信玄様は私の耳に顔を近づける。
「あいつはあぁ見えて、スケベだから天女から誘ってごらん。一発だから」
私の耳元でこっそり言われ、私が顔を赤くしていると…
「そこで何をしている、信玄」
「おー、顕如。気配を消して近寄るなよ。驚くだろう?」
全く驚いた様子は見せずに信玄様が笑う。
顕如様は呆れて溜息をついて、腰に手を当てる。
「全く…お前は、一体何しに来たんだ」
「久しぶりにまた顕如と酒でも飲もうかと思ってさ」
そう言って、信玄様は一升瓶を見せる。
「気軽に遊びに来るなと言っているだろう」
「ははは、硬いなぁ。顕如は」
「…どうした?目が赤くなっている」
顕如様が私の様子に気づいて顔を覗き込もうとした。
「大丈夫です。目にゴミが入っただけですから」
「…そうか」
顕如様が優しく微笑み、私も笑顔を返す。
私の髪を撫でると、信玄様と二人で行ってしまった。
「また信玄様、遊びに来たんだね。葉月様、大丈夫?変なこと言われなかった?」
「ううん、大丈夫…」
蘭丸くんの言葉は全然耳に入って来なかった。