第87章 恋事情〜豊臣秀吉〜
でも、私は気がついた。
根掘り葉掘り聞いても、秀吉さんは嫌な顔一つしなかった。
そんなの聞いて面白いか?と言うだけで。
……私だったら絶対言いたくないもん。
昔の恋の話なんて。
「…秀吉さんて、優しいね」
「なんだよ、今度は」
「恋愛事情、こんなにズケズケ聞いてるのに怒らないから」
「なんで俺がお前に怒るんだよ。…それに、お前じゃなきゃ正直には答えないさ」
「どうして?」
「お前があんな可愛く聞くからだろ」
「秀吉さんって本当に女性を喜ばすのが上手だね」
「…なんでそうなるんだよ」
「手慣れてる感じする」
私の言葉に秀吉さんはおもむろに、大きく息を吐いた。
そして、ちょっと意地悪そうに笑い私を見る。
「まあな、女なら手当たり次第に口説いてきたから」
「やっぱりそうなの?」
「…なんでそれはすぐ信じるんだよ」
本当だ。どうしてだろう?
秀吉さんの好意をほのめかす言葉は疑ってしまうのに。
そんな風に言われたら嬉しいのに。
信じる方が恐いと思ってしまう。
……だって、誰にでも言ってるんじゃないかって思うんだもん。
真っ直ぐ受け取る方が、私にはリスクが高い。
「なんでか私もわからない」
「…誰かに嫌な想い、させられたことでもあるのか?」
「そういうのじゃ…ないけど…」
やっぱり優しいな、と思う。
だからモテるのだろう。
「じゃあ、次はお前の番だな。話してみろよ、どんな恋愛してきたのか」
「いやです」
「おい。なんでだよ」
「秀吉さんみたいにたくさんしてないし」
「…だから、違うって言ってるだろ」
その時、急に私の腰を掴み引き寄せた。
グッと秀吉さんの顔が近づく。
「じゃあ、今のお前を教えろよ。もっとお前のこと、知りたい」
「な、なんで…」
「もうそれは教えてやったろ」
ずるいな。秀吉さん。
そんな風に言ったら、女の子は何も言えないって熟知してるでしょ。でも…
こくん。
私が静かに頷くと、秀吉さんの顔がほころんだ。
「やっと素直な葉月に戻った」
「私はいつも素直だもん」
「嘘つけ」
ま、そんなとこも可愛いけどな。
聞こえるか聞こえないくらいの音量で秀吉さんは呟く。
そして、また手をしっかり握りしめた。
「ほら、行くぞ。甘いもん食べるんだろ?」
そう言って、城下を二人歩いて行った…。
