第15章 風の強い日はあなたと〜徳川家康〜
「ねぇ、生き地獄って何?」
私が家康の肩を揺すって聞く。
「…振り向かないし、触らないんでしょ。二つとも約束破ってる」
家康が背を向けたまま答える。
「あ、ごめん」
私が手を引っ込めようとしたら、振り向いた家康がその手を掴んだ。
「…家康?」
「まだ怖いなら、手、繋ごうか?」
私の心臓が高鳴る。
家康は、優しい。
私を気遣ってくれているんだなとわかる。
でも、好きな人と手を繋いで寝るのは…ちょっと。
眠れない、よね。
だんだん、自分の状況を把握してきて赤くなって来た。
あの時は眠かったから一緒に寝ようなんて言ったけど、家康の匂いを感じながら安易と眠れるほど私は図太くない。
何やってるんだろう、私。
風の音よりも、この状況の方が怖い。まずい。
自分の気持ちを悟られてしまいそうで。
「私、帰ろうかな。やっぱり悪いし」
私が布団にから出ようとしても、掴んだ手を家康が離してくれない。
「…どうしたの、葉月」
私を見つめる家康は、夜着が乱れていて、少し胸板が見えた。
目のやり場に困り、私は下を向いた。
顔が益々赤くなっていく。
「何?急に意識しちゃった?」
ちょっと首を傾げて意地悪く家康が聞くので、私は返す言葉が見つからない。
「ち、違うもん…」
しかも、小さい声しか出ない。
イエスと言っているようなものだ。
「俺だと安心するんじゃないの?」
家康が、私の顔を覗き込んで聞いてくる。
その聞き方は反則だ…。
余計にドキドキして、思考が止まってしまう。
「可愛い、葉月…もっと意地悪したくなるな」
そう言って、家康の口元が楽しそうに上がっていく。