第88章 夜には、私の名前を呼んで〜明智光秀〜
後日談《光秀視点》
夜、
筆を置くたびに思う。
——もう、来ない。
あれが正しかったのだと、
何度も自分に言い聞かせる。
名前を呼んだことは、
後悔していない。
愛していると言ったことも。
——後悔していない。
あの娘は、気づいていないだろう。
あの言葉で、
縛られていたのは
俺自身だったということを。
全く、困った娘だ。
……愛している、などと
きっと生涯、口にはできない。
あの娘が、最初で最後だろう。
婚姻前に、
俺は一体、何をしているのか。
「……まるで、呪いだな」
わかっていて始めたことだ。
恨まれても構わない。
あの娘の心に、
俺の言葉が刻まれるなら。
決して触れられなくても。
もっと奥深く、
俺自身が、そこに蓄積されていく。
——刻印のように。
……あの娘の心は、
誰にも渡さない。
ただ、それだけのことだ。
end