第15章 風の強い日はあなたと〜徳川家康〜
「何の話がいい?」
「…じゃあ、あんたの幼少期の話がいい」
「え?また?弟の話ばかりだよ?」
「結構好き。あんたの家族の話」
家康は少し笑って言ってくれた。
こうやって、家族の話や子どもの時の話をすると、いつも興味深く聞いてくれる。
家康に話を聞いてもらうと、安心する。
暖かい毛布に包まれているような…安らぎを感じる。
すると、だんだん眠くなってくる。
家康は壁に寄りかかり、腕組みをしながら話を聞いてくれていたけれど、私が眠いのに気づき私の側に来てくれた。
「布団に横になりなよ」
「大丈夫。こっちで」
そう言って、畳に横になろうとすると家康が止める。
「駄目。風邪引く」
「だって…家康は?」
「俺は平気。座ったままでも眠れる」
そうかな?そんなの、疲れ取れないよ。
そんなのは絶対ダメ。
「でも、私丈夫だから」
「葉月、風邪引いたら看病しなきゃいけないのは誰?」
「…家康」
「そうだね。そうされると迷惑なんだけど」
「…じゃあ、家康も一緒に横になろう」
私が家康の袖を引っ張り、哀願する。
「はあ?何言ってんの、あんた」
「だって、家康の布団取るのやだもん」
「俺はいいって…」
「ね、お願い。私隅っこで寝るから。後ろ向きで寝るし、絶対に触らないから」
こうなるとテコでも動かない。家康は頑固な私をよく知っている。
「…わかったよ」
渋々頷いた家康にほっとする。
私は家康の布団に横になりながら「ごめんね」と言った。
「そう思うなら、他の所に行けば?」
「それは…出来ない」
「なんで?」
一緒にいたいから。
好きだから。
「…家康といると安心するから」
そう答えると家康がしばらく黙り込んだ。
「家康?」
「もう寝なよ。眠いんでしょ」
「…はーい。おやすみ」
私は目を閉じた。
家康の匂いを感じる布団に包まれて、ふぅと息を吐く。
なんだか、緊張しちゃうな。
急に目が覚めて来てしまう。
「…はぁ、生き地獄」
家康は私に背を向けたまま呟いた。
生き地獄ってどういう意味だろう。
私は、つい振り向いて家康の背中を見てしまう。