第1章 朝が来るまで待って 〜明智光秀〜
「またあんた?」
うんざりした顔で家康が言う。
あれから私は家康の部屋で入り浸ることが増えた。
「そんなこと言わないでよー。いえやすぅ」
「なに?酔ってんの?」
「違うよぉ。眠いのー。寝不足なんだよー。このままじゃおかしくなっちゃうよぉー」
「もう充分おかしいよ、あんた」
そう言って私を追い返そうとする。
「お願い!仮眠取らせて。ちょっとで良いから!」
「やだよ、自分の部屋で寝れば?!」
「だって!いろいろ考えちゃって眠れないんだもん!」
ただのわがまま娘に成り下がった私を軽蔑した眼差しで見ながら、ため息をつくと…
「わかった。ちょっとだけだからね」
と、部屋に入れてくれた。
家康の部屋は薬草の匂いがして落ち着く。すぐ横になるとそのまま目を閉じた。
「あ!こんな所で寝て…」
家康の小言が遠くに聞こえる。
良かった…今日は眠れそうだ…
「ちょっと言い過ぎたかな」
そう呟いた家康の言葉は私には届かなかった。
あの日、朝帰りした私を秀吉さんは延々と説教をした。
「嫁入り前の娘が朝帰りだなんて!何考えているんだ!相手は誰だ!」
と、そんな子に育てた覚えはないと言わんばかりの剣幕で叱られ、
「秀吉が煩いから、そういう時は前もって知らせろ」
と信長様には呆れられ、
「へぇ。意外とやるじゃねーか」
と政宗は面白がり、
「何はともあれ、ご無事で何よりです」
と三成くんに微笑まれ、
「あんたのせいで秀吉さんに起こされるし、本当に迷惑」
と家康には睨まれた。
「ごめんなさい」
と謝りつつも、私の帰る場所はここにもあるのかなと温かい気持ちにもなった。
まるで家族に叱られているような、懐かしい感覚になった。
あれから光秀さんは姿を見せていない。
合わせる顔がないから、これで良いのかもしれない。
でも、どうしようもなく寂しくもあった。
だからだろうか。
あの日から、私は夜が来るのが怖い。
あの夜のことを鮮明に思い出してしまうから。
日中どんなに忙しく予定を入れて走り回っても、布団に入ると身体は疲れているはずなのに涙が溢れて止まらないのだ。
感傷的になり過ぎだと自覚している。
でも、一度その沼に落ちてしまった私はそこから動けない。