第1章 朝が来るまで待って 〜明智光秀〜
ただ観賞していただけです。
綺麗なものを愛でていただけです。
そう言おうとしても口からは何も出てこない。
目の奥が、じんわり熱くなる。
なんでか怒られたような気分になった。
どうしたいのかわからない。
貴方がどうしたいのかわかりません。
私は此処に居たら駄目な人間なんです。
貴方に相応しくないのも理解しているんです。
そう思って、ただ見つめた。
涙が、目の淵に溜まっていく。
「だって、光秀さん私のことなんて好きじゃないでしょう?私のことなんて…」
そう言っている途中で唇が塞がれた。
涙が溢れていく。
わからない。
何がなんだかわからない。
でも、好き。
とても好きなんです。
こんな…こんな食べられるようなキス、私は知らない。
息が出来ない。
辛くて苦しいのに止まらない。
全身で、自分は女性なんだと感じた。
好きな人とのキスはこんなにも甘美で幸せなものなのか。
チュッと音を立てて唇が離れた。
離れがたい。そう思った。
「なんだ?急に女になったな」
「初めから女です…」
「怒るな、褒め言葉だ」
そう言うと、私の耳元で
「葉月…」
私の名前を囁いた。
初めて…名前を呼ばれた。
涙が溢れた。
もう…戻れない…。
忘れられないよ…。
次の日の朝、目が覚めると光秀さんは何処にもいなかった。