第14章 一夜の過ち〜猿飛佐助〜
夕餉の帰り、またふらふらと歩いていると家康が腕を掴んだ。
「ちょっと来て」
「家康?どうしたの?」
「どうしたのは、あんた。もう気になってイライラするから、薬飲んで」
家康が珍しく声を上げて言う。
「あっ違うの。具合悪いんじゃなくて…」
「知ってる」
小さな声で家康は答えた。
そのまま、家康の部屋に連れて行かれる。
「しっかりしなよ。今のあんた、隙だらけ」
「…ごめんなさい」
「此処には男が大勢いるんだから、もっと緊張感を持ちなよ」
「…返す言葉もございません」
私がしょげながら言うと、家康はふっと笑った。
「全く。いつもぼんやりしてるけれど、今日はぼんやりし過ぎてたね」
「そんなに酷かったかな?」
「あぁ。かなりね」
そう言うと、家康は溜息をしてから私を見つめた。
「何があったかは聞かないけれど、あんたは悩みすぎない方が良い」
「悩んでるってよくわかったね」
「わかるよ、顔に全部出てるから」
そうなんだ…知らなかった。
「もっと楽に、前向きに考えなよ。あんたはちょっと悲観的になりやすいから」
「凄い!家康、よくわかるね」
「あんたと一緒にいると嫌でもわかる」
「…ごめん」
呆れたように笑う家康と目が合い、私も笑った。
「ちょっとは元気出た?」
「うん、ありがとう」
「はい、これで終わり。明日はいつものあんたに戻りなよ」
「はーい!では、部屋に帰ります」
そう言って、私はパタパタと出て行った。
「…これで、大丈夫かな。あのままだったら、政宗さんに捕まってたから」
ふうと溜息をついて、家康は葉月の足音を聞いていた。
あの時、政宗さんがあの子の後ろを歩いていたから危なかったな…ギリギリ間に合った。
「本当に、迷惑なやつだな」
そう呟いて、家康は少し笑った。