第14章 一夜の過ち〜猿飛佐助〜
あれは私がいけなかったんだ。
秋の夜長で妙に人恋しくて、故郷を思って部屋で一人泣いていた私に、佐助くんが突然現れたから。
泣き止むまで側にいてくれて、話を聞いてくれたから。
ついつい甘えてしまって…。
佐助くんが帰ってしまうのが寂しくて、言ってしまったんだ。
「行かないで…もう少し一緒にいたい」って。
佐助くんの袖を引っ張ってしまったから。
だから、だからなんだ。
佐助くんは私を慰めようとしてくれたんだ。
きっとそうだ。
そうに違いない。
そう思いたいのに。
昨夜は本当に…
「エロかった…」
佐助が呟く。
「あ?なんだよ」
「いや、別に」
赤い顔してうずくまっていた佐助は、急にシャンと背筋を伸ばしていつもの無表情に戻る。
「お前、大丈夫か?なんか変じゃねぇ?」
「いつも通りさ。ありがとう」
「なら、別に良いけど」
幸村は佐助を横目で見ながら店仕度を始めた。
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昨夜の佐助くんは…私の知ってる佐助くんじゃなかった。
彼が男だと改めて感じさせられたのだ。
いや、男だと思っていたけれど、佐助くんはいつもクールだから。
でも、とっても優しいの。
頼りになるし、私のピンチにはすぐ駆けつけてくれて。
博学で、いつも何でも知っていて。
そう考えていても、昨夜の佐助くんの切長の目を思い出してしまう。
私に触れた手を。意外と逞しい身体を。
私の名前を囁いてくれたあの声を。
苦しそうな、あの表情を。
「声、ちょっと我慢して」って言った言葉を。
「〜〜〜〜………!!」
色々思い出していたら、身体に力が入らない。
廊下を歩いていた私は、壁に寄りかかってしまう。
朝からずっとこうだ。
もうやだ。
頭がパンクしそう。
でも、誰にも話せない。
胸が苦しいよ…。
あれは、佐助くんにとっては魔がさした…ということなのかな。