第13章 博愛主義のあなた〜武田信玄〜
「緊張しているのかい?」
夜着の姿で色っぽく聞かれると、目のやり場に困る。
この余裕さが余計に私の緊張を高めていく。
勢いでこんな所まで来てしまった。
宿に入り、部屋に通されてから、私はもう手の感覚がない。
「大丈夫です」
努めて平気なように答えても、信玄様はお見通しに違いなかった。
「此方においで」
手を差し出して、優しく誘導してくれる。
私は手を伸ばした。
信玄様の手は大きく、温かい。
信玄様らしい、柔らかく温かみのある手を感じた。
さっき、手を握ってくれた時は冷たかったのに。
そう不思議に思う。
「君は本当に可愛いね」
「…やめてください」
「なぜだい?」
「可愛く、ないです。こんな所まで来て、私…図々しいです」
そう言う私に、信玄様は優しく笑いかける。
「嫌だったら、連れてこないよ」
私の手に口づけると、私を近くに寄せる。
向かい合わせの格好に恥ずかしくなると、ますます信玄様の笑みが深くなる。
「よい眺めだな」
甘さたっぷりに言われ、心が騒めく。
この人はこうやって、沢山の女性を幸せにしてきたのだろう。
特定の人を作らないスタイルも実にこの人らしい。
きっと、これからも私のような女性が現れるだろう。
その度に優しく受け止めていくに違いない。
私はこの状況に感謝した。
「信玄様…」
「なにかな?」
「いつも優しくして下さってありがとうございます」
「…礼を言うのは俺の方だよ」
「私を美味しく頂くからですか?」
私が惚けて言うと、信玄様の目が柔らかくなる。
「いや、こんな俺を想ってくれて…かな」
信玄様は私の片方の手を取ると、指を絡ませる。
そのまま、信玄様の顔まで近づけると手に口づけをした。
指の間から信玄様の指を感じて、これからのことを期待してしまう。
そして、腰を引き寄せ私を膝に乗せた。
信玄様の顔のドアップに鼓動が速くなる。
私は初めて信玄様の顔を見下ろす。
いつもの信玄様より幼さを感じ、愛らしく感じた。
「信玄様…可愛い」
信玄様は困った顔をして
「どういう意味かな」
と私に言った。
私は薄く笑うと、自分から信玄様に口づける。
口づけをしたまま、信玄様に抱きつき、髪を触る。
深く深く、自分から口づけをした。