第13章 博愛主義のあなた〜武田信玄〜
<信玄目線>
信玄は、葉月を城の前まで送った。
「ありがとうございました。お食事、美味しかったです」
「それは良かった。満足して頂けたかい?」
「はい、ご馳走様でした」
葉月は、お辞儀をすると
「信玄様、さよなら」
そう言って、一度も振り返らずに帰って行った。
「…いやいや、危うく言いそうになってしまったな」
俺も同じ気持ちだと。
「まあ、この方が俺らしいな。今日は、優しいままの俺でいられたな」
信玄は、葉月の後ろ姿を見てそう呟いた。
信玄は城を背に歩き出した。
すると、後ろからザッザッザッと走ってくる音がする。
振り向くと、葉月が胸に飛び込んできた。
「どうした?」
「門番の方に、今日は帰れないって伝えて来ました」
「良いのかい?そんな…」
「良いんです!後でお叱りは受けますから…。側にいたい。今日はもっとあなたの側にいたいんです」
「姫…」
「その他大勢の一人で良い。ただのお茶友達でも良いんです。今日だけ、側に居させて…」
信玄は気づけば抱きしめていた。
こんな風に言われて抱きしめない奴はいない。
あんなに気持ちを押し殺して送り出したのに。
この可愛い姫の無鉄砲さに苦笑する。
「宿に来るかい?」
そう誘って、手を握りしめていた。
嬉しそうに微笑む葉月の顔を眺めながら。