第13章 博愛主義のあなた〜武田信玄〜
「私のこと、どう思っているんですか?」
「可愛いと思っているよ」
いつものように微笑んで信玄様が答えた。
可愛いというのは嬉しい。
でも、私が欲しいのはそういう答えじゃない。
「…そうじゃなくて」
「この回答じゃ気に入らないかい?」
「私が聞きたいのは、恋愛対象として、です」
私が真面目な顔で言っても、信玄様の表情は変わらなかった。
「…可愛いと思ってる。ただ、それだけだよ」
「わかりました…」
私は下を向くしかなかった。
下を向くと、涙が溢れて来てしまう。
どうすればこの涙が止まるのだろう。
信玄様が此方を見ているのに、泣いては駄目だ。
でも、涙の止め方がわからない。
「…姫。泣かないで」
あなたが泣かしているのに、無茶なお願いだ。
「俺には、君は勿体ないよ」
随分と程の良い言葉だ。
余計に腹が立つ。
君には興味ないと、はっきり言って欲しい。
私は涙目で信玄様を睨んだ。
それでも、信玄様の笑みは崩れない。
「言いたいことがあるなら、言ってごらん」
私の手を取って信玄様は言った。
「だったら、もう私に構わないで下さい」
「好きじゃないなら、興味ないなら私のことは放っておいて欲しいんです」
「幸のこと…紹介したり、勧めたりしないで」
とうとう言ってしまった。
これでもう会えなくなるな。
でも、これで良い。
会っても辛いだけだもん。
「幸を紹介したのは、そんなに嫌だったのかな?」
「…幸はすごく良い人だけど、私は…」
あなたが好きだったから悲しかった。
そう言おうとしても、言えなかった。
「私は…なんだい?」
「なんでもありません」
もう言っても無駄な気がして言えない。
もう帰りたい。
此処にいるのが辛い。
「言いたいことは我慢しないで言いなさい」
信玄様の瞳が哀しげに揺れる。
なんで、私じゃなくて、信玄様が辛そうなのだろう。
もしかしたら、ちゃんと私を振ろうとしてくれているのかもしれないと思った。
諦めさせたいのね…あなたのことを。
「私は…ずっと…信玄様が好きでした」
「ありがとう」
絞り出したような私の声を聞いてくれて、微笑んでくれた。
もう私の涙は止まっていた。