第13章 博愛主義のあなた〜武田信玄〜
「何でも好きな物を頼みなさい」
信玄様は素敵な料亭に連れて行ってくれた。
高そうなお店…。
でも、信玄様にはよく似合う。
その落ち着いた大人の雰囲気と同じだったからだ。
この人は何処に行っても誰と接しても、常に紳士だ。
私は、信玄様のそういう所をとても尊敬している。
いつも笑みを絶やさないこの人は、誰に対しても優しく温和だ。
彼は精神的にとても大人なのだろう。
始めて会った時からそう感じていた。
私のことも馬鹿にしたことも偉そうにしたこともない。
対等で、常に同じ目線でいてくれる。
そんなこの人に大切にされる人は幸せに違いなかった。
信玄様は美味しそうに料理を食べる。
信玄様は食べることも好きだし、話すのも上手だからきっとモテるだろうな。
私の前にも何人もこんな風に食事をしていたのだろう。
そのスマートな振る舞いから、そんな様子が見てとれた。
私以外にも…。
そう思うと心の中が暗くなった。
思わず、箸が止まってしまう。
「どうかしたかい?」
信玄様は何も変わらない。
誰に対しても優しいのと同じように…。
だから聞きたくなってしまう。
聞かない方が良いとはわかっていても。
あの時、やんわりと断ってくれたのに…。