第13章 博愛主義のあなた〜武田信玄〜
博愛主義のあなたに特別な人が出来たらどうなるのか。
あなたは特別な人がいるのか、気になった。
「姫は妙なことを聞くね」
信玄様はいつものように柔らかく笑っている。
「どう答えるのが正解なんだい?」
「それは…」
いない、と聞けたら嬉しいけど。
「いないよ。そして、これからも特定の相手を作るつもりはない」
目の前でばっさり切られた気がした。
私は、告白もしていないのに振られた気分だ。
君にはそういう感情はない。
きっと信玄様は、そう私に伝えたかったに違いなかった。
「…あんな言い方しなくても良かったんじゃないですか?」
ぼんやりと空を見ている信玄に、幸村は言った。
「いつもみたいに適当に答えりゃ良かったのに…あいつにだけ、あんなマジで返さなくても」
「確かに、らしくは…なかったかな」
そう言って、信玄はまた空を見上げた。
私と信玄様はお茶友達だった。
茶屋で一人で食べていたら、信玄様に声を掛けられ、水菓子を奢って頂いたのだ。
ナンパなのだろうかと始めは警戒したが、信玄様の温和そうな笑顔と振る舞いにすっかり信用してしまい、いろいろ話をした。
会う度にお茶をご馳走しようとするので、私もお返しをするうちに仲良くなった。
そんなある日、信玄様は「紹介したい人がいる」と幸村を連れて来たのだ。
私のことを幸村に強く勧め、幸村は困っているように見えた。
けれど、私たちは信玄様の予想と反して、ただの友人になったのだ。