第11章 見つめていたい〜明智光秀〜
ゆっくり二の腕から腕までマッサージしていく。
あ、腕の方が少し凝っている。
そう感じて腕を念入りにやった。
「あぁ、気持ち良いな…」
光秀さんの声が聞こえて嬉しくなる。
次、この人の腕に触れるのはいつだろうか。
恨み辛みを自ら買っているこの人を、憎む人が多いのは私でも知っている。
一歩外へ出れば、いつ命を狙われるかわからない。
私はいつも不安だった。
ただ祈ることしかできない。
戦いが始まってしまえば、生きて帰って来れるかわからない。
なんと苦しい時代だろう。
この人が生きてさえいてくれれば、私は構わない。
そう思って触っていると、目頭が熱くなってきてしまう。
「…どうした?」
この人にはすぐに気づかれてしまう。
察しの良い光秀さんは、急に黙った私を見ようと振り向く。
私は慌てて涙を拭いた。
「いえ、ちょっと考えごとをしていただけです」
「…そうか」
どうか気づかないで。
私の涙なんて。
勝手に出てくるだけなんです。
「次は手をやっても良いですか?」
私は前方に周り、光秀さんの前に座る。
光秀さんは両手を私の前に出してくれた。
私は溜息をつく。
「…本当に手が綺麗ですね」
私は両手で光秀さんの右手をマッサージしながら言う。
「そうか?」
「そうですよ!」
私は自分の手と光秀さんの手を比べてみる。
「見て下さい!光秀さんの方が指も長いし、色白だし。ずっと綺麗で女性的です。私の手、ゴツゴツしてません?色も黄色いし」
「確かに黄色いな」
「そうなんです!」
私はそう言って、光秀さんの顔を見るとバチッと目が合った。
あなたは顔も綺麗ですね。
見惚れてしまうほどに…。
私は恥ずかしくなり、すぐ光秀さんの手に視線を戻し、揉み始める。
…光秀さんの視線を感じ、顔が、耳が、どんどん熱くなってくる。
ドキドキして手が震える。
本当に緊張すると、人間って手が震えるんだな。
私は破裂しそうな心臓の音を感じながら、妙に冷静にそんなことを思った。
「上手いじゃないか」
間を埋めるための褒め言葉だろうか。
光秀さんに褒められるとこそばゆい。
「ありがとうございます…。でも、あまり見ないで下さい」
「無理な注文だな。見てしまう。一生懸命な姿が可愛くて、な」
「……!」
私の心臓の音が聞かれたらどうしよう?
そのくらい煩い音だった。