第10章 続・銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
謙信様は手紙のことを何も聞かなかった。
私も何も言わなかった。
それも謙信様の優しさだと、今の私にはわかる。
夜、謙信様の部屋でお酌をしていると、謙信様が顔を近づけてきた。
「今日も褥に来るか?」
「ただ横になるだけなら…行きます」
謙信様はみるみる顔を顰める。
「そんなわけないだろう」
そうですよね…。
「恥ずかしいので、ちょっと」
無理ですと言おうとしたら、謙信様が口を開く。
「恥ずかしい顔をさせたいのだ」
私を覗き込むように見つめる。
「来てくれるだろう?」
そんな縋り付くような目で見るなんて、ずるい。
断れるわけ、ないじゃないか。
「はい…」
私は降参した。
銀杏並木でつかまったあの日から、私は貴方に夢中なのですから。