第10章 続・銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
謙信様は、あの後に一通の手紙を私に渡してくれた。
三成くんからの手紙だった。
これだけは焼けなかった、と私に言った。
私はその手紙をどうすれば良いかわからず、縁側で座りながら握りしめたままだ。
「葉月さん…」
「佐助くん」
「訳そうか?その手紙」
「あ…」
私は手元の手紙を見た。
三成くんの心配そうな顔が浮かぶ。
「いいの」
「そう…?」
「うん」
謙信様が焼かずに残すくらい、この手紙には何かが書いてあるのだろう。
私は、この手紙は…読めない。
それを読んだら一瞬でも此処に来たことを後悔しそうだから。
でも、処分も出来ない。
「やっぱり、僕が読んでおくよ。知りたくなったらすぐ伝えられるように」
「え?」
「今はまだ知る自信がないなら、僕も半分背負うよ。少しでも、君の負担を無くしたいんだ」
「佐助くん…ありがとう」
「いいんだ」
そう言って、佐助くんは三成くんの手紙を静かに広げて見た。
佐助くんからは手紙の内容が全く伝わってこない。
今日は、佐助くんの無表情さに助けられる。
「手紙の内容は覚えたよ。聞く覚悟が出来たら、いつでも来て」
「…わかった。ありがとう」
佐助くんは薄く笑うと、
「俺も君に毎日会えて嬉しいよ」
と言ってくれた。
「謙信様と君が一緒になるとは、思わなかったけれど」
そう言って、私を見た。
「ちょっと大変な人だけど、愛情深い人だから」
「うん」
「何かあったら、俺もフォローするから」
ちょっと切なそうな顔をするので心配になった。
「佐助くん…元気ない?」
「いや、謙信様に朝からしごかれて疲れただけだよ」
「そう?」
「佐助くん、疲れているなら私、お茶入れてくる。待ってて」
と言って走って行った。
佐助くんは溜息をつくと、宙を見上げた。
"あなたを失って毎日がとても苦しいです。
あなたはそのままで、そこにいるだけで、ぱっと花が咲いたように場が明るくなりました。それだけで、どんなに私たちが和んだか。心を救われたかわかりません。私は後悔しました。いつでも会えるから。いつでも伝えられるからと…
私は、あなたに会いたいです"
「…葉月さんのこと、こんなに想っていたなんて。辛いな」
手に持ったままの手紙を見て呟く。
「なんだろう、手紙に感化されたのかな。すごく、胸が苦しいや」
佐助は首を傾げた。