第10章 続・銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
朝餉の後、謙信様はみんなを集めると、葉月を嫁に貰おうと思うと伝えた。
私の予想とは反して、驚いたのは幸村だけだった。
「幸以外は知ってたの?」
「知ってたのも何も。謙信様が女性嫌いなのは知ってるし、そんな情けで連れて来る人じゃない。予想はついていたよ」
「姫君、謙信はあぁ見えて相当な覚悟がないと、あんな無茶な真似はしないのさ。初めから決めていたのだろう。君を娶ると」
「なんか…俺だけ言葉通り受け取ってて、馬鹿みてぇじゃんか」
佐助くんや信玄様の意見に、幸村が不貞腐れた。
幸…大丈夫だよ。私もそのままの意味しか受け取ってなかったもん。
私は苦笑いをした。
「ということだ、宜しく頼む。さて、佐助、幸村、鍛錬してやろう。俺は今、気分が良い」
「…気分が良いのに、何故だ?!」
「幸村、諦めよう。こう言ってる時は相手になった方が後々良い」
「お前ー!そんなことばっか言うから、謙信様も図に乗るんだぞ」
「まあまあ、いってらっしゃい」
幸村と佐助くんを信玄様が笑顔で見送った。
みんなが去って、私と信玄様は二人きりになった。
「姫、謙信と話が出来たみたいだね」
「はい、ありがとうございました。信玄様に話を聞いて貰えて、すごく救われました」
「そうか…意外と早く問題が解決して、残念だな」
そう言って、私の髪の毛を掬う。
「え…?」
「もっと頼って貰いたかったな、と思ってね」
そう言って、甘い微笑みを私に向ける。
「冗談、ですよね」
「どう思うかい?」
からかいの含んだ大人っぽい笑みだった。
色気があり過ぎてクラクラする。
「わかりません…」
私が困り果てているのを見て、信玄様はクスッと笑う。
「可愛いなぁ、君は。可愛すぎるのも罪だな」
そう言って、私の髪の毛を弄んだまま離してくれない。
信玄様が何を言いたいのかわからず、混乱する。
「君は隙があり過ぎるから、心配だな」
「心配…?」
心配してくれていたのか。
そう言って、信玄様はそのまま私の頭を撫でてくれる。
納得する私の様子を見て、信玄様は笑みを深くする。
「またいつでも相談しにおいで」
私の耳元で甘く囁いて去って行った。
妖しげな笑顔をしたままで。