第10章 続・銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
でも、謙信様はやっぱり私を避けるので、私も暴挙に出た。
朝方…まだまだ暗い頃、私は謙信様の部屋にそっと入った。
寝ている謙信様の枕元に座り、声を掛ける。
「…謙信様」
「ん…なんだ…葉月か?どうした?」
寝起きのちょっと掠れた声が色っぽい。
不意打ちに来たのに私がドキドキしてどうするんだ。
「お話しがしたくて。寝起きなら話してくれるかなって」
そう言うと、謙信様が急に起き上がった。
「こんな所で何をしている」
「謙信様が口を聞いてくれないので、来ました」
「来ました…って。お前、まだ夜着じゃないか」
あ、そうだった。着替えてからくれば良かった。
「大丈夫です、寒くないので」
いや、本当は寒い。
しかも勢いで来たから自分の格好とか何も考えてなかった。
何をやっているんだ、私は。
でも、謙信様がやっと口を聞いてくれて嬉しい。
私は微笑んだ。
「何を言っている。寒いだろう」
そう言って、無理矢理私を布団に引き摺り込んだ。
布団の中は、謙信様の温もりと匂いがした。
急な出来事に頭が真っ白になる。
「ほら、あったかいだろう?」
「あ、はい…」
いや、あったかいですけれども。
これはちょっと…。
私、茹だってしまいます。
「手が冷たいじゃないか」
そう言うと、私の手を両手で包んでくれた。
「ありがとうございます…」
手だけじゃなく、顔も熱くなっていくのがわかる。
「悪かったな」
謙信様がぽつりと言う。
「謙信様…私、別に謝って欲しくて来たんじゃないんです」
「……」
「私は此処に居られて幸せなんです。だから…」
「だから?」
「えっと…」
そんな風に艶っぽく聞かれると、私は何て話したかったか忘れてしまう。
もう、謙信様がかっこ良すぎるのがいけないんだ!
「仲良くしたいんです。謙信様と」
「仲良く?」
「…はい」
そう言うと、謙信様は黙った。
あれ?私、変なこと言ったかな?
急に不安になる。
謙信様は肘をついてこちらを見る。
「仲良く、とはどの程度のことを言っている」
顔を向けると、端正な顔立ちが両目で私を見つめている。
その左右違う瞳が、私を射抜こうとする。
「えっと、お喋りしたり、笑い合ったり…」
「お前の仲良く、はその程度の話か」
私の手を掴むと、私を更に謙信様の近くに引き寄せる。
「男の部屋に来て、布団に入っているのに?」