第10章 続・銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
あれから…謙信様が口を聞いてくれない。
私は困り果てて、信玄様に聞きに行った。
信玄様は、たくさんのお菓子を用意してくれて私をもてなしてくれた。
「全く、謙信には困ったもんだな」
「いえ…どう接すれば良いかわからなくて」
「みんなには何て言われたんだい?」
「幸村にはほっとけって言われました。佐助くんは…」
佐助くんは私に謝っていたな。謙信様のことは、暫くそっとしておいて欲しいって。
「佐助くんも同じ感じです」
「そうか…」
「まあ、半分正解かな。謙信はあれで反省しているんだよ」
「反省?手紙を焼いたことを、ですか?」
「まあそうだね。君を連れて来たことも含めて、だね」
「そうだったんですか…」
「俺も手紙を読んだ手前、君を此処に連れて来たのは正解かどうか分かりかねる」
私を見ながら困ったように笑い、腕を組んだ。
「君は、みんなに想われていたよ…姫君」
「私が…ですか?」
「あぁ、少なくとも俺はそう感じたし、謙信もそう思ったから手紙を焼いたんだと思うよ」
「そんなこと、ないと思ってました」
私は下を向く。
お荷物だとばかり思っていたのに。
「君は自己評価が低すぎるよ」
ちょっと怒ったように信玄様は言う。
でも、目は優しかった。
「一緒に過ごせば、君の良さはすぐにわかるさ。もっと自信を持ちなさい」
「…はい、ありがとうございます」
「それと、謙信のことは気にせず、普通に話しかけて行けば良い」
「普通に…?」
「あぁ。いつも通りに声を掛けてごらん。あいつもどうすれば良いかわからないだけさ。気にしなくて良いよ」
この人は、なんて心にすっと入ってくるのだろう。
女性だけじゃなく、きっと人に優しい方なんだわ。
信玄様も秀吉さんと同等なくらいに人たらしに違いない。
「信玄様、ありがとうございました」
私が頭を下げると、ポンポンと優しく肩を叩いてくれた。
「さあ、姫。一緒に甘味を頂こうじゃないか」
「はい!」
私と信玄様が甘味を口に入れようとした、その時だった。
「やっぱりな。信玄様、また甘味隠してましたね!ったく」
幸村が甘味の匂いを嗅ぎつけて部屋に入って来た。
「…幸。せっかくの二人の時間を邪魔するなんて、悪い子だなぁ」
「幸も一緒に食べよう。美味しいよ」
そうして三人で甘味を頂く。
私は幸せだった。
信玄様も心配してるし、早く謙信様と話たいな。