第10章 続・銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
「ごめん、葉月さん」
佐助くんが私の部屋まで謝りに来てくれた。
「ううん、いいの。この時代の文字、私は読めないから」
「あ…そうか」
「その手紙も佐助くんに訳して貰おうかなって思ってたし」
「そうだったんだね」
「三成くんに文字、習っていた時もあったんだけどね」
三成くんからの手紙だけは何て書いてあったかは気になった。
約束を破ってしまい、迷惑も心配もかけてしまったから…。
「たぶん、もう気づいていると思うけれど…謙信様は、結構強烈なんだ」
「表現の仕方が?」
「そうだね。君が始めに抱いたイメージとはかなり…」
「ちょっと違うかもね」
そう言って私は笑う。
「佐助くんにも凄いもんね。見ていてわかるよ」
「いや、笑って貰えて助かるよ。君はあまり動じないんだね」
「そうだね。急に連れ去られた経験があるし」
「…そうだったね。ごめん。」
「ううん、此処に来たのは本当に嬉しいんだよ。安土城にいた時はずっと心細くて。なんで此処にいるのかもわからなくて、私の存在価値なんてないと思っていたし…佐助くんに相談したい、話したいってよく思ってたもん」
「君も大変だったんだね」
「違うの。覚悟がなかったの。佐助くんみたいに忍者になるような、この時代で生きていく覚悟が。そのくせ、何かしたら怒られる気がして何も出来なかったの。なんだか怖くて」
「…うん」
「そんな時、謙信様に会って、心に寄り添って貰えた気がして、とても嬉しかったの。だから、此処まで来たんだと思う」
佐助くんは静かに私の話を聞いてくれた。
「…やっぱり…君が大変な時、側に居てあげれなくて申し訳なかったよ」
「そんなこと!私が弱かっただけで…。今は毎日佐助くんに会えて嬉しいよ」
「そうか、良かった」
やっと佐助くんがほっとしたように笑う。
「これから、よろしくね」
「こちらこそ」
佐助くんのこと、頼りにし過ぎなのかもしれない。
でも、佐助くんがどんなにこの時代で頑張っていたかわかるから、尊敬も込めてつい頼りにしてしまう。
しっかりしなくちゃ…そう思いながら。