第9章 銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
幸村が慌てて言う。
「おい佐助、お前がいて何やってんだよ。
了承得ずに連れて来るって、誘拐じゃねーか!」
「いや、俺はてっきりロミオとジュリエット状態かと」
「何を言っているんだ、貴様は」
「謙信はやることが豪快だなぁ。はっはっはっ」
「はっはっはっじゃねーよ」
佐助くんは困り、幸村は呆れ、信玄様は楽しんでいる…私は笑ってしまった。
謙信様は、私が安土城で虐げられて泣いていたと思って、連れて来てくれたに違いない。
愛ではなかったけれど、これもまた一つの愛だ。
謙信様の優しさに違いなかった。
「おいおい、こいつ笑ってるぞ?大丈夫か?」
「気を確かに、葉月さん」
幸村と佐助くんが心配してくれるのを感じ、私は笑いながら答える。
「ううん、大丈夫。
私、安土城で何も役に立たない存在だったから消えても何も問題ないよ。手紙も置いて来て貰ったし」
「そうそう。手紙にはなんて書いたんだい?」
「え?私は無事なので、大丈夫です。今までありがとうございましたって」
「…なんか、合ってるような間違ってるような手紙だな」
「大丈夫だよ、姫君。私からも手紙を出しておこう」
「そんなんで平気なんですか?」
「さあ?」
「さあって…」
「織田信長がどう思おうが興味はないさ。事情を説明するだけ親切だろう?」
幸村の質問に、信玄様はそう言って笑う。
「ありがとう、ございます」
私がお礼を言うと、信玄様は笑みを深くする。
「本当に可愛いなぁ〜、姫君は」
そう言って手を伸ばそうとすると、謙信様が刀を抜こうとする。
「佐助、早く葉月を部屋に連れてけよ」
「わかった」
幸村と佐助くんがアイコンタクトをし、私をその場から押し出した。
私が、毎日のように謙信様に会いたい会いたいと願っていたから、ずっと会えるように神様がしてくれたのかもしれない。
そう思うと、笑みが溢れる。
私のイメージとは違う謙信様に驚いたけれど、人間らしくて嬉しく思った。
良かった、謙信様は精霊じゃなくて。
あの怒りん坊な所も可愛らしく思った。
さて、私は此処でどうしようか…?
安土城では何も役には立てなかった分、此処で頑張ろう。
謙信様の行為を無駄にしないように。
私の春日山城での日々がはじまる…。