第9章 銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
来てしまった…春日山城に。
あれから佐助くんはこっそりと私の荷物を取りに行き、手紙も置いて行って貰ったから、誘拐騒ぎにはなっていない…はず。
三成くんの顔が不意に横切り、申し訳ない気持ちになる。
心配してないと良いな…。
城の前には二人の男性が立っていた。
「これはこれは、素晴らしいお土産だな」
背の高い、優しげな瞳の男性に微笑まれる。
「初めまして、安土の姫君」
私の髪の毛を掬うと、手慣れたように口付ける。
「あ、初めまして…武田信玄様」
「名前を覚えて頂けているとは光栄だな」
佐助くんに女たらしは武田信玄様と教えられたからです…とは言えない。
「やめて下さいよ、信玄様。手当たり次第オンナ口説くの」
「幸。何を言ってるんだ。こんな可愛い子を口説かない方が失礼だろう?」
そう言って微笑む信玄様をげんなりして見るこの方は…
「真田幸村さん?」
「おう。俺のことも佐助から聞いてんだろ?」
はい。真田幸村は気は優しいけれど、口が悪いと聞いてます。
「初めまして。よろしくお願いします、幸村さん」
「幸でいい。あと、敬語もいらねーし」
本当だ。優しそう。
「ありがとう」
私が微笑むと、幸村がちょっと恥ずかしそうに頭をかく。
「おや?まるで幸がお見合いしているみたいじゃないか」
後ろから楽しげに信玄様が見ていると…
「こらこら、謙信。姫が怖がるだろう?刀は納めなさい」
「貴様ら、気安く触るんじゃない」
「俺、なんもしてねーし!」
「まあまあ、謙信様。スマイルスマイル」
佐助くんや謙信様も加わり、また一段と賑やかになる。
…なんだか凄い所に来てしまった。
でも、なんだかあったかい場所だな。
私はこの場所がすぐに好きになれそうな気がした。
私は本当に誘拐されたのだろうか?
「あの、私は一体なぜ此処に連れて来られたのでしょうか?」
そう言った途端、一斉にみんなが此方を見た。
「え?知らねーの?お前、謙信様のオンナなんだろ?!」
「織田信長から略奪して来たんじゃなかったのか?」
「君たち、恋仲なんだろう?」
みんなが口々に言いたいことを言う。
「…お前ら、何を言っている。安土城での暮らしが辛そうだったから連れて来ただけだ」
謙信様が当たり前のように言った。
あ、そうだったんだ…。
「はぁ〜??!」
三人の男の声が響いた。