第9章 銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
私は、元気に城を出ようとして歩いていると、三成くんに捕まった。
「今日も…お出掛けですか?」
「あ…今日はね、友達と約束しているの」
「そうですか」
少し怪しげに私を見ているのが伝わり、私は申し訳なく思う。
心配させている…。
そりゃそうか。此処の所、毎日だもん。
「心配かけてごめんね。約束する。今日は、夕暮れ前に帰ってくるから」
「本当ですね?」
「うん」
「わかりました。気をつけて行って来て下さい。私は、今日は出かけるので迎えに行けませんので」
「わかった」
少しは納得してくれたのだろうか。
私は三成くんを見上げると、にっこりと笑ってこちらを見ていた。ホッと肩を撫で下ろす。
良かった、信じてくれたみたい。
「行ってきます」
私は三成くんに手を振った。
✳︎✳︎✳︎
今日は人が多いな…。
城下は活気に満ちていた。
多分いないと思うけど…私はまたあの銀杏並木に行く。
やっぱりいない。
私はあの人がいた木に触って、もたれ掛かり哀しくなる。
仕方ない、今日は諦めて佐助くんの所に行こう。
でも、この辺りだけ銀杏とは違う香りがするような…。
あの人の匂いに似てる…。
「また泣いているのか」
木の後ろにいた、私の逢いたかった人はそう言って出て来てくれた。やっぱり、貴方は精霊…?
全く気配を感じませんでした。
「あ、あ…の…」
涙で視界がぼやけていく。
「私のこと、覚えています…か?」
「あぁ」
あの時と同じ、私を静かにじっと見つめるその瞳。
逢いたかった
逢いたかった
やっと…
「また、逢えましたね」
私はその人に微笑みかけると、釣られたのか少し笑う。
「そうだな…変わりないか?」
いえ、貴方に会ってからの私は変わりました。
良くも悪くも。
毎日、恋焦がれていました。
「…はい」
「では、また泣いているのは何故だ」
心配そうに、また私の顔を覗きながら聞いてくれる。
「いえ、大丈夫です。あの時話を聞いて頂けたおかげで元気になりました」
「そうか」
薄っすらと笑う顔が素敵だ。
優しい…気にかけてくれるなんて。
幸せな気持ちが陽だまりの暖かさのようにじんわり、心をほぐしていく。