第9章 銀杏並木でつかまえて〜上杉謙信〜
コンコン…
私が自室に入ると、天井から音がした。
「佐助くん?大丈夫だよ、入って」
華麗に着地して、無表情で私を見る。
「やあ、久しぶり」
「佐助くん!」
私は抱きつかんばかりに、佐助の手を取って喜んだ。
佐助くんに逢えるのは久しぶりだったし、何でも話せて心を許せる人だから。
弱った私には救世主のように感じた。
「会いたかった〜」
佐助くんは面食らったような顔をして、私を見る。
「…そんなに喜ばれるとは思わなかったよ。何かあったの?」
私は、掻い摘んで最近の出来事を話した。
もう一度会いたい人がいるということも。
「…それは、中身もイケメンだな」
うんうんと私は頷く。
佐助くんと話すのは楽しい。
一気に現代っ子に戻れる。
本当に故郷に帰れた感じ。
「そんなナイスガイがいるなら、僕もお会いしたいな」
「でしょ?しかも、すごく位の高い人だと思うの。気品があったし」
「…気品か」
「目の色がね、左右違うんだよ。オッドアイっていうんだよね、確か」
「……」
「佐助くん?」
「いや、俺の知っている人に似ている気がして」
「本当?!」
「……まあ、でも違うかな。その人は女性に関心ないし」
「…そう」
なんだ、ガッカリ。
せっかく手がかりが掴めたかと思ったのに。
「でも、とっても素敵な人だから佐助くんにも見せたいなー」
「そうだね。でも、残念だな。今回は上司のお守りというか、視察で忙しいんだ」
「そうなの…」
佐助くんと城下でまた会いたかったのに。
がっくり肩を落とした私を見て、佐助くんは少し笑う。
「いつもの場所に店は出しているから、来てよ」
「うん、もちろん」
「じゃあ、またね」
そう言うと、あっという間に消えた。
明日、城下で佐助くんに会える。
城下に行く名目も出来たし、佐助くんに会えるなら寂しくない。
私は明日を楽しみにしながら眠ることが出来た。