第88章 夜には、私の名前を呼んで〜明智光秀〜
「昨夜、随分と寝るのが早かったんだな」
翌朝、秀吉さんにそう言われ、思考が止まった。
「え?」
「あ、いや。お前の部屋の前を通った時、灯りがなかったから」
「……うん、そう。ちょっと眠くなっちゃって、早めに寝たの」
「………そうか」
気づかれただろうか?
私は秀吉さんの目が見れない。
嘘だとバレてしまいそうで。
「あんまり、無理するなよ」
頭にポンッと優しく秀吉さんの手が乗った。
反射的に顔を見る。
「お前は、いい子だからな…心配なんだ。あんまり思いつめるなよ」
いい子…
私がいい子なわけない。
側に居たいだけなんて綺麗事言ったけれど
本当は、抱いて欲しいって思ってた。
許嫁より先にあの人に触れられたいって……
強く思ってた。
「…秀吉さんは、
本当に私がいい子だと思っているの?」
まるで責めているような強い口調で言ってしまった。
自分でも、驚くほど。
私は——
秀吉さんじゃなく、
自分自身に苛立っていた。
「どうしてそんなことが気になるんだ?」
「だって、私は自分のこと
いい子なんて思ったことないから」
「…そうか、でもな」
頭に置いていた手が、少しだけ強くなる。
「いい子ってのは、
欲しいものを欲しいって言わねぇ奴のことを言うんだぜ?」
秀吉さんは、遠くを見るような目でそう言った。
「……俺は、そんな奴ばかり見てきた」
ふと目が合い、
そのまま、微笑まれる。
「だから言ってるんだ。
無理するなってな」
——その優しさが、
私を一番、苦しめた。