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イケメン戦国<私だけの小さな恋の話>

第88章 夜には、私の名前を呼んで〜明智光秀〜



沈黙の中、
光秀さんが、ゆっくり息を吐いた。

「……お前は、利口ではないな」

光秀さんは、頬杖をついてこちらを見た。

「ここへ来れば、
戻れなくなると分かっていただろう」

「……はい」

それでも、来てしまった。

光秀さんは、少しだけ視線を落として言う。


「……許嫁の女を、
俺は一度も抱いたことがない」

息が止まった。

「それでも、
あの女の人生は俺が引き受けた」

「……それって……」

「愛ではない」

即答だった。

「だが、責任だ」

私を静かに見つめる。

その目は、優しくも冷たくもあった。

「そして——
お前には、その責任すら負えない」

胸の奥が、静かに壊れていく。

わかっていても、光秀さんの口から許嫁の話を聞かされると苦しい。

「でも、でも…愛がなくてもあなたは抱けるのでしょう?責任があるから」

「それがどうした」

「私にだって、愛がなくてもいいから…だから…」

「抱け、と言うのか?」

「違います。ただ、側に居たいんです。それだけでいいから」

「駄目だ」

「どうして?責任なんて負ってもらいたくはありません。あなたの気持ちを…私は少しでも軽くしてあげたいんです」

「そんな気遣いは不用だ」

冷たく言い放つ。
ぴしゃり、と心の扉を閉ざされたのだとわかった。

「だから、
もうここには二度と来るな」

「……できません」

小さく、でもはっきり言った。

光秀さんは、ほんの一瞬だけ
困ったように笑った。

「……そうか」

立ち上がり、光秀さんは襖を開けた。

「ならせめて、今宵は帰れ」

「また来てもいいんですか?」

……ああ。

ほとんど聞こえないほど小さな声で、
光秀さんはそう答えた。

それ以上は、何も言わない。

それが
彼の出せる、精一杯の優しさだったのかもしれない。
そして——
この夜のことを、誰よりも先に気づく人がいることを、
私はまだ知らなかった。


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