第87章 恋事情〜豊臣秀吉〜
「へぇ…いいですね」
私の明らかにテンションの落ちた答え方に
「おいおい」と秀吉さんが言った。
「あのな。お前から聞いておきながら、その反応はなんだよ。俺から勝手に話してないぞ」
「まあ…そうですけど。なんか楽しそうでいいなぁと思って。公務の合間に会ったり、甘味を食べに行った…とか」
「たいしたことはしてなかったけどな。あの頃は俺も必死で逢瀬どころじゃなかったし」
「ふーん」
「…聞いてんのかよ」
秀吉さんは私にそうツッコミを入れた後、「じゃあ、行くか?一緒に」
そう言って、私の顔を覗き込んだ。
「…え?私?」
「もちろん、お前と」
なんで?なんて聞けなかった。
だって、当たり前みたいに言うから。
逢瀬のお誘い、スマート過ぎないかしら?
手慣れてるなと思ってしまう私は可愛げがない。
でも、嬉しくないと言ったら嘘になる。
そんな風に…ね、屈託なく誘われたら嫌な気はしない。
「秀吉さんっていつもそうやって逢瀬に誘ってるの?」
「そうやって?」
「なんか、慣れてる感じする」
そう言った私に、秀吉さんは笑う。
あ…図星なんだわ。
その笑い方。
「…お前って、面白いな」
「そうですかね」
「そうだよ」
ほら、と笑いながら私に手を差し出す。
「公務の途中だけど、あま〜い甘味でも食いに行くか?」
私が考えあぐねていると、私の手を掴み握った。
「ちなみに、手は繋がなかったぜ?」
「前の人と?」
「…そ。お前だけ」
そんな特別みたいな言い方したって騙されないもん。
そう思うのに、私の口角は勝手に上がっていた。
「ずるい、秀吉さん」
「そうか?」
何にも気にしない様子で、私の手を握り、歩き始める秀吉さん。
私とは経験値が違うんだわ。
そんな諦めたような気持ちになる。