第86章 悩ましい人〜豊臣秀吉・明智光秀〜
「さっきは優しくするって言ったのに」
「俺なんかの言葉を易々と信じる、お前が悪い」
「ひどい…っ」
「そう言うな。嫌がられた方が燃えるタチだぞ、俺は。抵抗しない方がいいと思うがな」
その言葉にぞっとして大人しくすると、また再び首筋に小さな痛みを感じる。
「…綺麗な首だな。赤い跡がよく映える分、心が痛む」
「じゃあ、やめてください。こんなこと」
「男避けだ。秀吉も、これを見ればお前に近づかない。信長様からつけられたモノだと思うだろう」
「…それが何か?」
「お前はわからなくていい」
「ひどい、こんな跡をつけておいて…」
「そうだな。悪かったな、今日は」
そう言うと、後ろから抱きすくめ、さっきより優しく柔らかく唇を動かしながら私の首筋をなぞった。
ゆっくり、時々舌でなぞられ、声が出そうになる。
「…好い反応だな。声は出さないのか?」
「もう、やめて…」
「嫌がられる方が燃えると言っただろ?忘れたか?」
そう言って私の顎を捉えると、二度目の口づけをした。
それは甘く、長く、私の思考を遮断させた。
蜘蛛の巣に囚われた蝶のように、光秀さんから離れられずに…。