第86章 悩ましい人〜豊臣秀吉・明智光秀〜
秀吉さんに謝られて、泣きそうになる。
違うよ、秀吉さん。
あなたはひとつも謝ることなんてない。
「私…ずっと、秀吉さんにお礼が言いたかったの。私のことをいつも気遣ってくれて、声を掛けてくれて嬉しかったんです…本当は。今日はそのお礼を言いに来たんです」
そうだ。
私はずっと伝えたかった。
変なヤキモチをやいて、ひねくれて、秀吉さんからの優しさを受け止められなかったけど、本当はすごく嬉しかったって。
ありがたかったって言いたかった。
秀吉さんにとっては当たり前で、ただの配慮でも、私の心は救われていた。
そして…
「ありがとうございました。私、その時からずっと…ずっと……」
言葉が続かなくなった私の手の上に、秀吉さんの逞しい手が重なる。
温かい。
秀吉さんの心のよう。
さっき触れられた腕の感触もまだ残ってるのに、こんな風に触られたら胸がいっぱいになってしまう。
秀吉さん…
私、ずっと好きだったの。
あなたのことが。
「いいよ、葉月。もう充分、伝わった。ありがとう。すげぇ嬉しいよ」
秀吉さんは困ったように笑い、そんな顔すんなよと照れくさそうに言った。
私は今、どんな顔をしているんだろう?
「秀吉さん…あの…」
「ん。何?」
「手、手が…その…」
「あぁ、これ?」
秀吉さんはそう言うと、重ねていた手をぎゅっと握った。
「こんなんじゃ、俺は足りないんだけど。…もっと触れたいくらいなんだぜ?」
秀吉さんが触れている手から私を見つめる目から、熱が伝わって来る。
私の胸までギュッと握られているみたいに苦しい。
でも、私ももっと触れて欲しい。
「葉月、こっちを向いて」
「秀吉さ…」
私に引き寄せられるように、秀吉さんの顔が近付いてきた、その時。
「ー…秀吉、いるか?」