第86章 悩ましい人〜豊臣秀吉・明智光秀〜
「…忙しくなんてない。大丈夫だから。話があるんだろ?今、お茶淹れるから」
こくんと頷くのが精一杯で、私は中に入った。
部屋からふわっと秀吉さんの香りがして、ますます緊張して身体がこわばる。
本当に来てしまったのだと実感がわく。
どうしよう。
私の顔、赤くなってないかな?
こんなにあからさまに反応したら、秀吉さんだって困るのに。
ただ、話をしに来ただけなのに。
すごくドキドキして、まともに話なんて出来そうもない。
置かれた座布団に腰を下ろし、私は俯いた。
「…そんなに緊張されると、俺まで緊張してくるな」
「あ、ごめんなさ…」
「いや、俺こそ悪かったな。葉月がせっかく来てくれたのに、焦って何やってるんだろうな」
私の謝罪に被せるようにそう言って、秀吉さんが私に向き合った。
「…どうかしたのか?何かあったんだろう?この間も元気が無かったから、気になっていたんだ」
「あ。それは」
「…大丈夫になったんだろ。光秀から聞いた」
「え?光秀さんから?」
「あぁ。話、聞いてやれって言われたんだ。お前を心配していた」
優しい笑顔の秀吉さんと目が合い、柔らかく微笑まれる。
「あいつに言われるのは癪だがな。光秀が俺に頼み事をするなんて珍しいから、驚いた。お前を気にかけるなんて、な」
あの光秀さんが、わざわざ秀吉さんに私のことを?
信じられない。
胸の奥から何かが込み上げてきて、じんわりと目が潤んだ。
「…葉月。何か話があるんだろ?聞くから。俺もゆっくり話がしたかったんだ。お前が何か悩んでいるのは気づいてたのに、時間作れてなくてごめんな」