第86章 悩ましい人〜豊臣秀吉・明智光秀〜
でも、ありがたいことでもあった。
私の微妙な変化に気づくのは、いつも秀吉さんくらい。
私のことをちゃんと見てくれる人がいる。
それだけで、心は救われた。
充分じゃないか。
そう何度も心の中で自分に言い聞かせる。
確認して、思いとどまらせる。
好きになっても、同じ想いは返っては来ないだろう。
それがわかるから。
私は私を引き止める。
ー…期待して好きなってはいけない、と。
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「秀吉に何か言われたのか?」
「光秀さん…」
光秀さんが私に声を掛けるなんて、珍しい。
みんなといる時は私のことを揶揄って来ても、私にわざわざ話しかけてくることはない。
だから驚いて言葉が出なかった。
「今日、嫌なことがあって、ずっと塞ぎ込んでいたんですけど、何も言ってないのに秀吉さんが気づいてくれたんです。大丈夫か?って」
「…ほう。彼奴らしいな」
「そう、ですよね」
やっぱり秀吉さんっていつもそうなんだな。
そんな悲しい確認作業をしてしまう。
「秀吉さんって優しいですよね」
「優しすぎるのが彼奴の欠点だがな」
長い腕をさらりと組んで、光秀さんは私を横から見た。
だろ?そう言ってちょっと意地悪く笑う。
意味深な言い方だった。
「優しいのは欠点になりませんよ」
私がムッとして言うと、光秀さんがふっと笑う。
「…なんで笑ってるんですか?」
「秀吉が不憫でな」
「不憫?」
「だってそうだろう?誰彼構わず優しくしているせいで、勘違いする女子が星の数ほどいる」
「…そうなんですね。やっぱり」
私はため息をついた。
秀吉さんの恋人になる人は大変そうだ。
秀吉さんの人たらしのせいで、恋敵が増えてしまうのだもの。