第85章 恋だと気づく瞬間〜明智光秀〜
「…葉月?」
「嘘です。違うんです。…私、あなたに会いたくて来ました」
「俺に?」
ますます面食らったような光秀さんの顔が急に憎らしくなり、私は捲し立てるように言った。
「なんで…何で急に私の前から消えたんですか?暫く留守にするって、明日は会えないってどうして言ってくれなかったの?」
気づけば涙が出て来ている。
でも、一度出た涙と本音は次々と溢れて止まらない。
こんな風に言うのは間違っていると、頭ではわかっているのに。
口からは言葉が勝手に出て来てしまう。
「あなたがいなくて、いなくなってどんなに不安だったか…わかりますか?!何かあったんじゃないかって気が気じゃなかった。もし、いなくなるなら前もって言って下さい。じゃないと私…私…」
そこまで言って、私は唇を噛んだ。
私は何を言おうとしているんだろう。
何で責めているの?光秀さんを。
会えて嬉しいと。
無事で良かったと
何で素直に言えないの?
可愛く『おかえりなさい』と、どうして言えないの?
「……悪かった」
「違います。私、謝って欲しいんじゃ…」
「そうだな。わかっている。心配してくれたんだろう?俺は無事だ。何日も連絡せず、悪かった」
そう言って、私の両手を光秀さんはそっと包み込んでくれた。
「…冷たいな。ずっと待っていてくれたのか?」
目線を合わせるように屈んでそう聞かれ、思わず素直に頷いてしまう。