第85章 恋だと気づく瞬間〜明智光秀〜
政宗は、母親が子どもを見るような優しい眼差しで私を見ると、ふっと笑って言った。
「あいつが好きなんだな」
「…でも、駄目なの。好きになっちゃ」
「何言ってんだよ。好きになっちゃ駄目な相手なんて、この世にいねーよ」
いるんだよ、政宗。
この時代を生きていない私は…
あと三ヶ月で帰る約束をした私は…
この時代の人間を…
光秀さんを好きになっちゃダメなんだよ。
「バカだよね…私。あんなに好きにならないようにしてたのに」
「事情はわかんねーけど、気持ちを消そうとすればするほど好きになっちまうもんだからな。人間なんて駄目だと思うほど、欲しくなるし求めてしまう生き物なんだぜ?お前はまさにドツボにハマってんだな」
「本当にね。何やってるんだろう…私」
「…否定すんな、自分のことは。自分の気持ちを受け止めてやれよ。ただ受け止めるだけでいいんだよ。自分で自分を否定すると、辛いだろ?」
「う、う…ん」
「なんだよ、泣いてんのか?」
「だって、政宗が優しいから」
「まあな。俺は優しいし、男前だろ?」
「…自分で言う?」
私がふふっと笑うと、政宗も口の端を上げて笑った。
「……お前の気持ちはわかった。光秀のこと、俺なりに探ってみるよ。何かわかったら、すぐ知らせてやるから」
「本当?ありがとう」
「…あぁ。さっきの話は光秀に言ってやれ。きっと喜ぶぜ」
政宗は、私にそう約束してくれた。
そして、二日後には本当に光秀さんの情報を教えに来てくれた。
昨日から光秀さんが御殿に帰って来ているらしい…と。