第85章 恋だと気づく瞬間〜明智光秀〜
光秀さんを好きにならないようにしていた。
人として好き。
ただ、それだけだと。
そう自分に言い聞かせていた。
だって 好きだと自覚なんてしたら、辛くなるのがわかるから。
惚れたら地獄だと、言っている人がいても
私は、そんな風にはならない
なってはいけないと…
ずっと思っていた。
だから、彼の思わせぶりな言葉にときめいても
期待しそうになっても
『いや、違う。騙されるな、私』
『あの人は、誰にでもそうなんだ。私は特別なんかじゃない』
心の中で何度も唱えて、思いとどまらせてきた。
だから、光秀さんが師範のように私に色々教えてくれても、毎日顔を合わせて揶揄われても、上手くあしらっていた…つもりだった。
彼の気まぐれに付き合うつもりはない、と。
そんな時だった。
ー…光秀さんが急に姿を消したのは。
もう何日も私は光秀さんを見ていない。
そして、誰も彼のことを教えてはくれなかった。
「…あの、光秀さんは…?」
「さあなぁ。アイツが何も言わずにいなくなるのはよくある事だから、気にすんな」
私なりに勇気を出して政宗に聞いたのに、期待とは違う答えにがっかりしてしまう。
政宗なら何か知っていると思ったのに…。
「……そうなんだ。わかった。ありがとう」
「お前、今どんな顔してるか気づいてるか?…光秀がいなくて寂しくて堪らないって顔に書いてあるぞ」
「えっ!」
「…はっ。図星かよ」
政宗に鼻で笑われ、私はじわじわと熱くなる頬を両手で抑えた。