第84章 戯れの関係〜織田信長〜
私がむくれると、信長様は愉しげに笑う。
そう、この人はこのままでいい。
私をのびのび揶揄って、笑って。
私といる時だけは、戦略や政など難しいことは全て忘れて欲しい。
私が信長様にできることなど、限られているけれど、少しは心を軽くしてあげたい。
それに、彼に悟られない為には、私たちはこのくらいの距離が良い。
このくらいの距離感がいいんだ。
「私、思わせぶりなことを言う人は好きじゃないです」
「…ほう。それは残念だな」
「信長様、残念そうな顔して言うんですよ、そういう台詞は」
私がちょっと睨むとまた声を出して笑う。
不本意だ。
でも、あなたが楽しそうだと、私まで嬉しい。
変な関係だけど、私はこういう態度でしか、信長様とは関われない。
好きを一滴でも溢したら、あなたに勘付かれるから。
可愛げなくて、ごめんなさい。
でも、嫌いなんかじゃありません。
世界があなたを敵に回しても、私は…私だけはあなたの味方でいたい。
きっと、この気持ちは変わらない。
そんな想いを込めて、笑う信長様を見つめる。
どうかこの人が明日も生きて帰って来ますように。
私とまた他愛のない話ができますように。
こうやって、時々は囲碁の相手を命じ、気まぐれに私を抱こうとする信長様のままで。
私を…求めてくれますように。
ー…私がずっと抱きしめてあげますから。
本当は孤独なあなたを。
そう夜空に願って…毎晩目を閉じる私をあなたは知らない。
知らなくていい。
これは、内緒。
今も。
ずっとこれからも…。
あなたには内緒。